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審査の改革と「微差の幸運」

澤本嘉光 電通 クリエーティブボード エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

最近、審査会が立て続けにありました。

一つはACCラジオCM部門賞の審査会。ACCはAll Japan Radio & Television Commercial Confederationの略。文字通りに訳すと「全日本ラジオとテレビCM連盟」となります。

今時ラジオとテレビかよ?なのですが、名前が一番遅れていて、ACC賞はWeb動画とかキャンペーン全体についても審査していますので少しご安心を。ここのラジオCM部門の審査委員長を今年で5年目。だいたい「長」というものは3年以上やると妙な権力を持ってしまい、どの世界でもろくなことがないと思うのでこんなに長くやる気はなかったのですが、古く凝固しかけたラジオCMを新しくほぐしていくのに僕には5年かかってしまった、というのが実際です。妙な権力を是非欲しかったけど、発揮できたのは「審査会の打ち上げ絶対来てね!」と圧をかけた時くらいでした。

この審査会については何回かコラムにも書いてきた記憶があるので長くは書きませんが、「賞を改革する」時の僕なりのやってみての一番の正解は、改革し得る審査員を選ぶということです。応募する人は選んでほしい人が選ぶ賞には応募してくれます。そして選ばれる結果も選ぶ人によって随分違います。

今年の審査でも、これ、数年前の「広告制作者ばかりが選ぶ賞」だったら絶対に入ってるよな、という玄人好みのものが選外へと漏れたり、逆にこれ選ばないだろうな、と思うものが入ったりしています。広告ではないジャンルの方で「ラジオが好きな人」を審査員に大勢起用して、業界内に閉じない審査会を目指した結果でもあります。

審査会の雰囲気もまるで違います。今はとにかく楽しい。結果、結果も楽しい。そういう目に見えない部分が実は賞自体の雰囲気を大きく変えていきます。「これ落としちゃダメでしょ!」という作品が入らなかったりもしていると思うのですが、申し訳ないな、と思いながら、でもこれが変わって行きたい方向、開かれたメジャーなラジオ、への道だと信じています。

今年もう一つ審査をしました。それ、広告と関係ありません。何故かホリプロスカウトキャラバンの審査員。広告の審査会に広告でないジャンルの人を審査員でお呼びしたのとは逆の立場、つまり、タレント業界のプロではないジャンルの人として参加したわけです。昔は「スカウトキャラバンの審査員やりて〜」とか「水着審査見てえ〜」とか言ってた気がしますが、そういう理由で参加したわけじゃないです。水着審査なかったですし。むしろできればここは避けて通りたかったかなあと。だって12、3歳の女の子を見て将来のタレントとしての才能を見抜ける自信なんてないです。何より、生きてるものの審査をするのが怖かった。普段は審査してるのが「作品」であり、比喩的に「私の子供です!」ということはあっても生きてるものではありません。でも、スカウトキャラバンでは目の前の人間を人間が審査するわけですから。

そしてここで審査員がつけた順位で、今見ている人の人生がこの瞬間から変わっていきます。実際、目の前で一人の女の子の人生が大きく変わる瞬間を目の当たりにしました。僕らが数十分の議論で「優勝」とした人の人生が。ほんの少し前まで普通の少女だった子が、暗闇の中、ドラムロールが終わり、整列した数人の中で一人だけスポットライトが当たるといきなりタレントになっている。マジックです。トンネルを抜けるとそこは雪国どころじゃないです。

選ばれなかった、少女のままでいる子たちが即座に誘導されて、一人の少女に視線が集中した舞台から気付かれないように去っていきます。体育の授業の行進のようにまっすぐに前を見て。振り返っちゃいけないんだろうな。それとも意思なのかな。真っ暗な舞台袖にいる僕ら審査員のほんの数十センチ、目と鼻の先を遠い場所を見ながら通過していく。通り過ぎる時に風が吹くわけです。彼女たちの行進の作る何かしらの感情を含んだ風です。少ししょっぱい湿度があるようにすら感じる。もう、下手な映画より映画でした。

微差です。本当に微差です。運と言っても過言じゃない。でも、その微差は審査員である僕らが判断した基準の上の微差なわけです。ここにいるのが僕たちでなければ別の微差で別の結果が出たような審査会だったかもしれない。誤差と言ってもいいかもしれない。とすると、もう、運です。そう思うと、風が吹き終わった時に無性に申し訳なくなりました。

審査員は、怖い。間違えてない自信なんて少しもない。優勝した彼女には頑張ってほしいし、その微差が正しかったと証明してほしいとは思います。10年後とかに「俺あの子選んだ審査員です」と、鼻高くしたいですから。同時に、少し鼻をすする音が廊下に聞こえていた子たちにも、あの時優勝しなかったのが運が良かった、あの審査員のおかげで今の自分の幸せがある、と言えるようになってほしいな、と強く思った次第です。

世の中は全てにおいて微差の集合体。誰かの作ったなんらかの微差から選ばれて今自分がこの仕事ができている。その微差の幸運をすぐに人は忘れてしまう。なんか、その差が微差だったことを忘れて当然の住人のようにその世界に染まっていく人を見ると、思い出そうよ、あなたにとっての審査会がなんだったのか、と、思ってしまう訳です。真っ先に疑うべき自分を含めて。

僕も、微差をくれた人に「間違いじゃなかっただろ?」と威張ってもらえるように頑張らないとな。と。

筆者プロフィル

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、家庭教師のトライ「ハイジ」、トヨタ自動車「ドラえもん」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。前者は読売新聞会員制サービスyorimoの連載を単行本化。後者の映画脚本も執筆。2014年1月に公開された映画「ジャッジ!」の脚本も担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。数多くの海外の広告賞の審査員も歴任。

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