from Europe
(2012.1.27/2012年2・3月号 from Europe)
復権めざすワイン王国
川添泰樹
パリ駐在
毎年11月、パリ市南部の国際展示会場で独立系ワイン生産者の見本市「サロン・デ・ヴァン」が開催される。入場者はグラスを片手に、国内1,000以上もの中小ワイナリーが構えるブースを巡り、試飲を楽しむ。気に入れば購入も可能だ。大混雑の会場で、熱心に生産者の説明を聞きながら試飲し、ダース単位で購入していく人々の姿を見ると、フランス人のワインに対する愛情を感じずにはいられない。
何しろ、フランス国家警察の機動隊に昼食の際のワイン・ビール禁止令が出されたことで、隊員から猛反発が起こり、内務省に禁止令反対の書簡が提出されるというお国柄である。フランスに根ざしたワイン文化は、歴史の長さも洗練度も、我々日本人には想像が容易でないほど奥深いと言えるだろう。
ところが、そんなワイン王国にも、国内外におけるフランスワインの相対的な地位低下という暗雲がたれこめている。国内的な問題は、嗜好の変化だ。かつて日常的に食卓に上ってきたワインが、健康への配慮から特別な機会にしか飲まれなくなってきており、若年層ほどその傾向が顕著だという。ワインを日常的に飲む人の割合は1980年には51%だったが、現在は17%までに落ち込んでいる。
国外では、“ニューワールド”と呼ばれる米国、南米、オーストラリアなどの台頭がある。これらの安価で質の安定したワインの攻勢を受け、フランスは生産量、輸出量ともにシェア低下に苦しんでいる。地位低下の要因は、グローバル市場での消費者嗜好への対応の遅れや、商品群の多彩さゆえに消費者にわかりにくくなっていることだと指摘されている。
そこでフランスは国家レベルの対策として、2009年から13年までの「ワイン産業の改革5か年計画」を策定、世界市場でのシェア回復とイメージ向上を狙った取り組みを行っている。例えば、フランス農水省から事業委託を受けるフランス食品振興会が、世界34か国の拠点を通じてPR活動を展開、世界各地のワイン見本市への出展や、飲食店、流通業者などを対象にセミナーを開催するなどしている。
広告の規制緩和という追い風もある。91年制定のエヴァン法により、酒類広告は産地、生産者名などの客観情報しか表示できず、宣伝媒体もテレビは禁止されるなど、厳しい制限が課せられてきた。しかし法改正によって、色や味わい、香りなどの表現や、ブランドの差別化が可能なAOC(原産地統制呼称)の表示が、テレビやWEB、印刷媒体などの広告内でできるようになった。
このような取り組みが奏功したのか、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュといったフランス銘柄を代表する“ブランド・ワイン”は、中国や香港向けの伸びがけん引役となって、2011年の世界各国への輸出は回復基調に入りはじめたという。
昨年のクリスマス商戦の11月中ごろから、大手シャンパーニュメーカーの全面広告やラッピング広告など、ワイン関連の広告が各紙をにぎわせた。中でもル・モンドには66ページからなるワイン特集、ル・フィガロには50ページものシャンパーニュ特集別刷りが折り込まれ、その密度の濃さに舌を巻いた。新聞社がこんなボリュームの特集を発行しても採算がとれるほど広告主の需要があり、こうした特集に喚起されてワインを買う消費者がいる。広告ひとつをとっても、フランスにおけるワイン文化のすそ野の広さを感じる。このような広告が起爆剤となって、フランスワイン復権の日がやってくるのか注目だ。

