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インタビューキーパーソン

(Wed Oct 05 10:00:00 JST 2016 /2016年10・11月号 リーディングトレンド)

今回のテーマ 「働き方改革」の将来像
〜働き方の変化で注目されるマーケット〜

柳川範之 氏
東京大学大学院経済学研究科教授  

柳川範之 氏

今年8月に発足した第3次安倍再改造内閣は、長時間労働の是正など「働き方改革」を最大の課題に掲げ、担当大臣を新設した。すでに仕事の現場では、IT化や人口知能(AI)の進化で変化が起きている。近い将来、働き方の変化が必至となる中で、今後、どのようなマーケットに注目が集まるのか。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の柳川範之氏に聞いた。

今、働き方が注目される理由は?

  日本の場合、高度成長期前後を含めた少し長い幅での成長期は、ものすごく特殊な時代でした。その時代に日本が著しい経済成長を遂げたため、「日本的経営」と呼ばれる経営スタイルが唯一の正解であるかのようにされたところがあります。もちろんその時代にはうまく合っていたのでよかったのですが、時代が変わり世界が変わっていった時には、その変化に合わせていろいろなものを変えていかなければなりません。日本社会がどうあるべきか、もう少し長い目で見ていく必要があると考えています。
  関係する大きな流れが2点あります。1点目は、世界的な潮流として、所得格差や貧困の問題が生じていることです。2点目は、AIの進化など技術革新により、「将来、現在の仕事がなくなり、職を失うのではないか」という危機感が広がってきていることです。
  先進国での所得格差は特にアメリカで顕著ですが、今まで中間所得層が従事していた仕事がIT化に伴って減少しているため、所得が二極化して格差が広がっているのです。アメリカは日本と違い、企業が従業員の解雇やレイオフを頻繁に行うので所得格差の拡大がダイレクトに統計上に表れており、いずれ日本でも同じことが起きるのではと考えられます。
  そして日本は、少子高齢化という重要な課題に直面しています。より多くの人が一人ひとりの能力を生かして働くことができるよう、多様な働き方のニーズに応えられる仕組みを作る必要があると考えられているのです。

働き方の具体的な変化は?

  私は、厚生労働省の「働き方の未来2035」懇談会で、事務局長として提言をまとめました。懇談会では年齢も職業もかなり多様な人が集まっていたにもかかわらず、2035年に向けて、共通する未来像を持つことができました。
  AI、ロボットに「仕事を奪われる」という見方をするのではなく、実際には、新たな働き方やビジネスが生まれる見通しに注目するべきです。IT化やAI、ロボットを使うことで実現できる多様な働き方がたくさんあります。時間と場所にとらわれない働き方ができるようになるというのが、明るい見通しと呼べるポイントです。
  かつての仕事のスタイルは、朝から晩まで同じところに集まって顔を合わせないと仕事にならないというものでした。IT化によって在宅勤務が可能となり、さらにテレビ会議システムが高度化すれば、遠く離れた場所でも同じ場所で働いているのと同じように仕事ができるようになるでしょう。すでにタブレットやスマートフォンの活用で、働き方が変わってきています。
  今後はこうした変化のより大きなものが起きることが予想され、その変化をうまくとらえることが重要です。今の仕事から別の仕事が生まれるほか、今の仕事を別の方法で行うことにもなるでしょう。
  AIとロボットの活用が進むと、仕事の割り振り、分担が変わります。人間ならではの能力、広い意味でのコミュニケーション能力を生かすことがより重要になり、その力を生かしていくことで個々人にもチャンスが広がるでしょう。
  具体的には、企業トップの仕事にも通じる面がありますが、交渉力、組織やグループをまとめあげるリーダーシップ、異文化との間でのコミュニケーション能力などです。
  今後は、企業組織のあり方も変わり、個々人がプロジェクトごとに組織に所属し、企業の形態は様々なプロジェクトの塊になっているかもしれません。

働き方の変化で生まれるビジネスチャンスは?

  最近、世界的にかなり小さなベンチャー企業が急成長しています。5、6年前にスタートした企業が、現在、大企業に成長している例も珍しくありません。今後さらに、新しいビジネスが新しい形で出てきて、急速に拡大する時代がやってきます。
  働き方が多様化してくると、生活の時間が細切れになってきます。フルタイムで一日中ずっと仕事をするという形態ではなく、例えば「今日は映画が観たい」という日には、一日の中で途中3時間休みを入れるなど、働く時間を細切れにできるのです。言い換えると、「細切れの余暇」を誰もが持つことができますから、細切れの余暇をどうビジネスに結びつけるかも考えることができます。
  さらに、もう少し進化すると、「働くこと」と「遊ぶこと」の区別がつかなくなってきます。これはとてもよい変化と言え、企業がそういう場をどうやって提供できるかがポイントです。遊ぶように働いて、いきいきといいものを作り、コストも安くできるのであれば、働く人も企業もハッピーではないでしょうか。
  「働き方の未来2035」の提言には、将来の日本人には個々人が「好きで得意な道」で技術革新をフル活用し、世界で類を見ないユニークな存在であり続けてほしいとの思い、そのための方策を盛り込みました。
  本人がやりたいことをやれるようにする。どんな働き方をするかではなく、いかに本人が選びたい働き方を選ぶことができるようにしていくか。究極的には、働く人自身が自分でその働き方を選んでいるかどうか。そういう環境をどう作り上げていけるかどうかが大切です。

やながわ・のりゆき

1963年生まれ。1988年慶應義塾大学経済学部卒業。1993年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士号取得。96年東京大学大学院経済学研究科助教授、同准教授を経て2011年12月から東京大学大学院経済学研究科教授。専門は契約理論、法と経済学。著書に『法と企業行動の経済分析』など。

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