(2011.12.2/2011年12月・2012年1月号 Creativeが生まれる場所)
ドキュメンタリーのような広告が作りたかった[ファイザー 禁煙啓発キャンペーン]
株式会社ナカハタ
クリエイティブディレクター/コピーライター
神谷 幸之助氏
たばこの似合う俳優と言われていた舘ひろしさん。その禁煙のきっかけを作ったのが、ファイザーの禁煙啓発キャンペーンのクリエイティブディレクター・神谷幸之助さんだ。舘さんが受けた禁煙治療は医師が処方する薬を使って行うもので、薬事法のルールで、広告では処方薬の名前を出して効能をアピールすることはできない。それを禁煙治療を受けるシーンをドキュメンタリータッチで紹介することでクリアし、受診に踏み切る人を増やすだけでなく、社会的にも大きな反響を呼んだ。最近の新聞広告を含め、キャンペーンの考え方と広告に対する思いを神谷さんに語ってもらった。
──11月の広告は、それまでの「軍団禁煙」路線と変わって、文字だけの広告でしたね。
この広告には、少し事情があります。震災の復興税対策としてたばこ税引き上げが検討されていましたが、それを当初はテーマに考えていました。「禁煙の問題はたばこの値上げの問題ではなくて、あなたと家族の問題ですよ」というのが広告のメッセージだったのです。増税審議を真剣に見守っている喫煙者にも、たばこ増税にリアリティーがない人にもコピーを響かせたくて、「禁煙の問題はたばこの値上げの問題ではなくて」という部分を「まず」という間接的な言葉に置き換えたということなんです。
──値上げというのは禁煙に大きく影響する?
前回、2010年10月の時もそうでしたが、たばこの値上げは禁煙の大きなきっかけになります。今回も、増税の話が出ただけで受診する患者さんの数が増えたと聞いています。そういう考えに対して、広告では「値上げよりも、まず自分の健康のため、家族の健康のためでしょう」と言いたかったんですね。“禁煙”というのは社会性のあるテーマなので、公共広告を作るつもりで作っているんです。
治療のドキュメンタリー
──神谷さんがファイザーの広告にかかわった時期は?
2010年の舘ひろしさんを起用した広告からです。もっと広告の効果が出るように、要するに禁煙治療の患者さんを増やせないかということで始めたキャンペーンです。僕はどちらかと言うとタレント広告は好きではないのですが、この場合はふさわしいと思ったのです。人気のあるタレントさんが実際にたばこを止めてくれるということであれば、社会的にも意義があることだと思ったんですね。
最もたばこが似合うタレントさんを探して行き着いたのが、石原プロです。でも、石原プロって怖そうじゃないですか(笑)。恐る恐る、でもストレートに、「舘さん、禁煙できませんか」と聞いたんです。そうしたら、意外にもOKだった。ヘビースモーカーだった舘さんは、それまで何度も禁煙に失敗してきたそうで、快く禁煙治療啓発に賛同していただけたんですね。
お医者さんと禁煙をサポートするファイザーの「すぐ禁煙.jp」
──舘さんの禁煙治療の診察シーンがサイトで見られますが、説得力がありますね。
やりたかったのは禁煙治療のドキュメンタリーです。通常のキャンペーンではウェブはサブ的な役割が多いのですが、今回は治療風景をウェブでぜひ見てほしいという目標がありました。
禁煙治療のための処方薬というのはファイザーだけで、競合商品がない。治療のシーンはそれを端的に伝えられるというのが一つ目の理由です。もう一つ、お医者さんのモチベーションを上げるというのが、真の目的だったからです。舘さんと担当医師が禁煙治療に真剣に取り組む姿が、お医者さんのやる気につながると思ったんですね。そういう目標で2010年度は、広告を展開しました。
それで、今年度は、禁煙に成功した舘さんに加え、石原軍団の若手の俳優さん4人に禁煙治療に挑戦してもらったということなんですね。
──ウェブを中心に作ったということですが、新聞広告やテレビCMも使っていますね。
ウェブだけあっても、なかなか決定打にならない。その存在を伝えるのは、やはりテレビや新聞などのマス広告ですね。
広告プランナーであれ
──そのマス広告の役割を神谷さんはどう見ていますか。
マス4媒体と言われていますが、圧倒的に強いマス媒体がなくなってきているのは事実です。以前はマス媒体が元気だったから一つの媒体に出すだけでも価値があった。それが届きにくくなっているのは確かです。ただ、ファイザーの例のようにウェブ中心で作っても、それを知らせるには広告を打たざるを得ません。逆に、ウェブが発達すればマス広告はいらないというのも幻想だったということもはっきりしてきた。ケータイやスマートフォンを使ったキャンペーンもあり得るとは思うのですが、世の中の大きなムーブメントになっていかない。そこは、やはりマス広告なんです。
それから新聞について言えば、そういうマス広告の役割とは別に、今後は新聞ならではの価値を作っていく時期に来ていると思います。実際に新聞広告を使って感じるのは、50代を中心にした40代、60代への強さです。この層は比較的お金を持っている層なんですね。その人たちをターゲットにした広告キャンペーンには、新聞は欠かせない媒体です。新聞をセグメントされた広告媒体と考えた方が、「ロスがない媒体」という評価を得られると思いますね。
──コピーライターの役割も、変わってきたのでしょうか。
コピーライター養成講座の講師をやっていますが、生徒には純粋なコピーライターを目標にするなと言っています。ウェブの企画が考えられる、コマーシャルも作れる、新しいコミュニケーションの仕組みも考えられる。だけど、言葉の専門家。そういう広い意味での“広告プランナー”になってほしいと言っています。
──広告の中で、コピーが重視されなくなった気もするのですが。
2011年6月19日 朝刊
それには、二つの側面があると思います。一つは、最近よくコンテンツという言い方をしますが、今は広告を含めてコンテンツになってしまっているところがあります。ホームページも、企業の人たちが書いているケースが多くなっています。広告の言葉も、ウェブの情報も、一括りにコンテンツと言われてしまっている。広告の言葉は、本来、その商品の世界観を表すもの、クリエイターの表現なのですが、そこまで求められなくなっているんですね。
もう一つは、メールやツイッターなどの普及です。個人的なメールは、相手を笑わせてやろうと思って、その反応を想像しながら打つじゃないですか。企業のメッセージか個人のメッセージかの違いだけで、やっている行為は同じなんです。今ほど、多くの人が文章を書いている時代はなかったと思うんですね。そういう意味では、書き手のレベルも、受け手のレベルも上がっている。
そういう時代に広告を機能させるにはどうしたらいいか。言葉の専門家の前に広告プランナーであれ、というのはそういう意味なんです。
神谷 幸之助 氏
電通、ワイデン&ケネディ トウキョウを経て2008年、コピーライター仲畑貴志の新会社「ナカハタ」設立に参加。主な仕事は、キリン本格辛口麦「嵐を呼ぶ男」、「アデランスは、誰でしょう?」、MS&AD[三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保]、NIKE、KUMON、トヨタ「ECO-PROJECT」、タイ航空「タイは若いうちに行け」など。TCC最高賞をはじめ受賞多数。

