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コラム数字を読む

(Mon Apr 06 22:00:00 JST 2015/2015年4・5月号 数字を読む)

Vol.8 髙橋威知郎 ソフトバンク・テクノロジー株式会社 シニアコンサルタント

Ichiro Takahashi

1974年生まれ。筑波大学大学院博士課程社会工学研究科中途退学、数理工学修士、中小企業診断士(経済産業大臣登録)。内閣府(旧総理府)およびコンサルティングファームなどを経て現職。官公庁時代から一貫してデータ分析業務に携わる。主に大手消費財メーカー・小売りに対し、マーケティング戦略およびプロダクト戦略、マーケティングROI、ライフタイムバリュー、統計モデル構築などのコンサルティングを実施。現在は、一歩進めたフィジタル(ネットとリアルの融合)マーケティングのコンサルティング業務に従事している。著書に「14のフレームワークで考えるデータ分析の教科書」(かんき出版)、共著に「トップデータサイエンティストが教える データ活用実践教室」(日経BP社)。

Ichiro Takahashi

『トップデータサイエンティストが教える データ活用実践教室』(日経BP社)

  ビジネスに数字はつきものです。売り上げや費用、顧客数、客単価など色々な数字で表されるデータがビジネスについて回ります。最近のIT化やビッグデータブームなどとあいまってデータ自体が増えています。気を付けないとデータの洪水にのみこまれてしまいます。
  昔、私はデータに強欲でした。出来るだけ多くのデータを集めたい、出来るだけ細かいデータを集めたい、集めた後で取捨選択すれば良いのだ、と勘違いしていました。集めるとすべてのデータに目を通したくなります。それはそれで新たな発見があるかもしれません。しかし多くの場合、データの洪水にのみこまれ、本来の目的とずれだし、それを取り戻すために時間をロスしていました。
  手に入るデータをすべて集めるのは得策ではありません。人が処理できる量には限界があり、取捨選択が必要になります。つまり、目的に照らし合わせ、必要なデータを集め不必要なデータを集めないようにするのです。
  では、どのようにすれば良いのでしょうか?
 【目的整理】 データを集める目的を「メッセージボード」で整理する
 【洗い出し】 必要なデータを「データツリー」で洗い出す
 【取捨選択】 「集めるデータ」と「集めないデータ」を決める
  この3つについて、広告のROI(費用対効果/広告効率性)のデータ収集事例を用いて説明します。

広告のROI(広告効率性)を 分析する

  ある消費財メーカーに、広告を専門に扱う広告宣伝部があります。広告のムダを省き、利益を向上させることが課題です。広告の配分を見直すため、広告媒体別のROIを調べることにしました。広告のROIは「ROI=利益÷広告費」で計算します。投資した広告費でどれだけ利益を生み出したのかを測る指標で、値が大きいと効率的です。

  たとえば、図1のようなマップ「横軸:広告による売り上げ獲得(広告効果)×縦軸:広告のROI(広告効率性)」を作り分析します。右上にプロットされている広告媒体は、売り上げ獲得が大きく効率的な「理想的な広告」です。右下にプロットされている広告媒体は、売り上げ獲得が大きいものの非効率な「コストを改善すべき広告」です。左上にプロットされている広告媒体は、売り上げ獲得が小さいものの効率的な「露出機会を増やすべき広告」です。このように広告媒体別にROIを計算し分析することで、今後の広告施策の参考にすることができます。
  データを集めるときの問題の一つが、データの「ムラ」です。たとえば制作費を含めたり含めなかったり、各広告媒体で広告費の内訳が揃(そろ)わない。この状態で広告のROI「利益÷広告費」の計算をすると、広告費の「ムラ」のせいで数字を読み誤ります。
  このようなデータの「ムラ」を避けるためにも、データを集める目的を「メッセージボード」で整理し、必要なデータを「データツリー」で洗い出し、集めるデータと集めないデータを決めます。

【目的整理】 データを集める目的を「メッセージボード」で整理する

  あなたがデータを集めるとき何かしら「目的」があるはずです。その目的を整理し「常に意識」することが重要です。そのためにメッセージボードを作ります。次の5項目です。
 誰?(Who)  誰がアクションをするのか?
 目的(Why)  なぜアクションをしなければならないのか?
 何?(What)  そのアクションとは何か?
 具体的には?(How)  より具体的には?(どのようにアクションを実現するのか?)
 最初の第一歩(First Action) 最初にすべきことは?
  メッセージボードとは、「数字を読んだ結果、誰が何をどのようにアクション(意思決定や具体的行動など)するのか? それはなぜか?」を整理したものです(表)。データを集める前に「誰?(Who)」「目的(Why)」「何?(What)」を考え記述します。

  今回の事例では、「誰?(Who)」は「広告宣伝部」、「目的(Why)」は「広告のムダを省き、利益を向上させる」、「何?(What)」は「①広告のROIを知ることで、②広告費の配分を見直し、さらに③配分した広告費のコストダウンを実施する」になります。「①広告のROIを知る」は、実施するアクション(②と③)の評価指標としてROIの数字を使うことを意味しています。「②広告費の配分を見直す」「③配分した広告費のコストダウン」は、データから導き出したROIの数字を読んで実施するアクションそのものです。
  この段階で「何?(What)」をきちんと記述するのは難しいことでしょう。表のように抽象的に記述するか、もしくは「テレビCMの広告費を減らしインターネットの広告費を増やすことで、広告のROIが全体として増えるであろう」などのように仮説を記述します。したがって、データを集め分析した後に「何?(What)」は書き替えます。そのとき、残りの「具体的には?(How)」「最初の第一歩(First Action)」も記述します。「何?(What)」「具体的には?(How)」「最初の第一歩(First Action)」の3つが揃って初めて、どのようなアクションをどのように実現すればよいのかが分かります。

【洗い出し】 必要なデータを 「データツリー」で洗い出す

  メッセージボードの「誰?(Who)」「目的(Why)」「何?(What)」を整理したら、次にデータツリーを作ります。データツリーとは、データの構造を記述したものです(図2)。集めるデータも集めないデータも、関係のありそうなデータをすべてメッセージボードに沿って記述します。難しいことはありません。データツリーは、「四則演算」(+-×÷)や「ビジネスフレームワーク」(マクロ環境の整理のPEST、業界構造把握のための5Forces、マーケティングの4Pなど)、「時系列」(過去→現在→未来など)、「顧客の状態」(見込み客、新規客、継続客、優良客、休眠客、離反客など)などをベースに分岐し作ります。

  今回の事例では「四則演算」を使い分岐しました。先ほど、メッセージボードで整理したように、集めたデータから知りたいのは広告のROIです。前出の式「広告のROI=利益÷広告費」を出発点にデータツリーを作ります。
  まず、「広告のROI」を「利益」と「広告費」に分岐します。その利益は「利益=売り上げ-費用」と表せるので、「利益」を「売り上げ」と「費用」に分岐します。その費用は「費用=広告費+広告以外の費用」なので、「費用」を「広告費」と「広告以外の費用」に分岐します。このように、「四則演算」を使い、分岐していきます。
  このデータツリーを作る段階では、データが存在するかどうかは気にせず、理想の状態を目指してどんどん分岐しツリーを作り込んでいきましょう。

【取捨選択】集めるデータと集めないデータを決める

  データツリーに登場したデータをすべて集めるわけではありません。スケジュールとメッセージボードに基づいて、集めるデータの取捨選択をします。限られた時間の中で、広告媒体ごとにデータを「ムラ」なく集めます。
  今回のデータ集めで「ムラ」がでるのは広告費です。たとえば、テレビCMの広告費は「媒体費」しか含まない。新聞広告の広告費には「媒体費」だけでなく「制作費」まで含める。インターネット広告は外注しているので「外注費」を広告費と見なす。この外注費には「媒体費」や「制作費」、「外注先の人件費」「外注先の利益」などが含まれている。これでは広告媒体によって広告費の内訳が異なり、広告費に「ムラ」ができてしまいます。
  この広告費の「ムラ」をなくすには、各広告媒体の広告費の内訳を揃えれば良いのですが、思い通りにデータを集め整備できないことがよくあります。すぐ分かるもの、時間をかければ分かるもの、よく調べても分からないもの、そこはスケジュール次第です。
  今回すぐに分かったのは「媒体費」だけでした。「制作費」に関しては集めるのを断念しました。財務データを基に社内や外注先へヒアリングをすれば分かる可能性はありましたが、非常に時間がかかるためです。したがって「媒体費」だけを「広告費」とみなし、広告のROIを分析することになります。

  このとき、データツリーに「どのデータを集め、どのデータを集めないのか」を記録しておきましょう(図3)。取捨選択の記録です。今回の場合には「媒体費」は集め、「制作費」など他の広告費は集めないと記録します。
  この取捨選択を書き込んだデータツリーは非常に重要です。集めたデータから導いた数字を解釈するときに、どのデータを使ったのかが一目で分かるからです。今回ですと、「媒体費」を「広告費」と見なした分析になるので、「制作費」など他の広告費を含めると結果が変わることを念頭に置いて数字を読み解釈しなければなりません。さらに、このデータツリーは今後のデータ整備につながります。なぜ「制作費」のデータを集めることができなかったのか? を考えるきっかけになるからです。後々の分析に利用しやすいように記録します。

目的整理、洗い出し、取捨選択で数字を読む

  いかがでしたでしょうか?
  ビジネスに数字はつきものです。広告でどれだけの売り上げを上げることができたのか? それは効率的だったのか? 数字で表現できるからこそハッキリ分かるのです。しかし、その集めたデータに「ムラ」があると数字を読み誤ります。数字は説明の説得力を増しますが、読み誤ると勘違いで物事が進んでしまいます。
  最近はビッグデータブームです。色々なデータが集められ、目移りすることも多いことでしょう。データの洪水にのみこまれないためにも、データを集める目的に照らし合わせ、「必要なデータを集め不必要なデータを集めない」ように注意し数字を読み解きましょう。

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