adv.yomiuriトップページへ

ojoトップ  > コラム  > マーケボン  > 〈最終回〉仕事がつらい

コラムマーケボン

(Mon Feb 06 10:00:00 JST 2017/No.849 マーケボン)

〈最終回〉仕事がつらい
『〆切本』(左右社) 平塚元明 マーケティングプランナー

  数年前、人間ドックの検査結果表を見て苦笑したことがあった。数値がずらりと印刷された大判の用紙、幸いにして深刻な所見は見当たらず、ほっと一安心。あれ、ちょっとまてよ、なんだこれ。「診察」の欄に目がとまる。医師と対面で行う簡易な問診があってその要約を記すところ、そこにポツンと「仕事がつらい」の文字。

  「ずいぶん不規則な生活ですねぇ」と事前記入の問診票を見て若い医師。同業の大半は同じようなことを言われているだろう。医者に褒められるような生活をしている人を多く見かける業界ではない。そうですね、〆切(しめきり)が近づくと大変で、どうしても深夜、場合によっては明け方まで仕事をしてしまいます、さすがに若い頃のように徹夜するのは厳しくなりましたが……というような話をした。

  そうしたら「仕事がつらい」になった。あの、すみません、そんなこと一言も言ってないです(笑)。仕事は「大変」ではあるけれど「楽しい」ですよ、という感じで喋(しゃべ)ったつもりだったのだが、よほど冴(さ)えない寝ぼけっ面をしていたに違いない。きっと「つらい」のだろうと勝手に気の毒がってくれたのだな、と冒頭の苦笑いになったのであった。

  このところ広告業界の働き方に関する報道や議論に触れる機会が増えて、この「仕事がつらい」をふと思い出した。過重労働が指摘される広告屋の仕事、何よりもまず「大変」のその程度(業務量や拘束時間など)を減じる対策を急がねばならない。そしてさらに考えなければならないことがその先に潜在しているのを、たぶん業界の誰もが勘付いている。仕事の「大変」さが、「つらい」に順接する(大変だから……)か、「楽しい」に逆接する(大変だけど……)か。この分岐について考えること、この分岐に影響する目に見えない磁場について考えることだ。

  特に若い世代において、「つらい」の線が年々強まっているような気配がある。なぜだろう。彼らを見ていると、一種の〈焦り〉のようなものを感じることがある。みんなうまくやっている、わたしもうまくやらなくちゃ。ネットを通じて、同世代の友人たちの大小さまざまな成功談が日々飛び込んでくる。ソーシャルメディアなんて大抵はかっこいいことしか書かないもんね。わたしだけがうまくできてない、もっとがんばらなきゃ。そんな若いうちから成功も何もないだろう、と中高年は笑うが、若い人、特に真面目な人ほど、〈焦り〉が昂(こう)じて「つらい」が強くなっていく。

  もっとかっこわるい話が要るんじゃないか。華々しい成功のバックキャストよりも、忘れてしまいたい失敗の泣き笑いが。みんなうまくいかないことが多いんだなあ、わたしだけじゃないんだなあ。「大変」がいきなり「楽しい」にいかないとしても、「つらい」に行く線をいくらか弱めてくれるはず。これは先輩であるあなたの役割だろう。自分の自慢話をSNSに書き込んでばかりいないで、若い人を食事に連れ出してみよう。かっこいい話で「いいね!」を押させるだけがコミュニケーションではないのだ。

  今回の推薦本は『〆切本』という一冊。作家が〆切に苦しんで晒(さら)した醜態奇態を集めた本で、これが全編、実にかっこわるくて抱腹絶倒。夏目漱石、川端康成、谷崎潤一郎、といった文豪をはじめ、手塚治虫や長谷川町子といった漫画家も登場する。世に出た彼らの作品を仰ぎ見るのもいいが、生みの苦しみの泣き笑いをのぞいてみると、帯に曰(いわ)く「なぜか勇気がわいてくる」のである。大推薦。

イメージフォト

まさか8年(隔月刊で全48回)も続くとは思わずに安請け合いした本連載、本業の〆切よりも、こちらの〆切の方が大変でした。素晴らしい機会をいただけたこと、そして今までたくさんの方に読んでいただけたことに、あらためて感謝しています。ありがとうございました。

本誌デザイン/阿部雪絵デザイン室

〔筆者プロフィル〕

1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂プラニングハウスフェロー、(株)パズル社外取締役、(株)ants相談役、「宣伝会議」レギュラー講師。著書に「ポスト3.11のマーケティング」(共著)など。 http://blog.goo.ne.jp/omiyage22

本誌は次号から随時発行となります

1998年4月に創刊した「読売ADリポートojo〈オッホ〉」は、20年目を迎える2017年4月からリニューアルし、随時発行となります。 次号は4月発行予定です。

News & Report

〈No.849 リーディングトレンド〉

月末の金曜日に退社時間を早める「プレミアムフライデー」が、いよいよスタートする。午後3時に退社し、余暇を楽しんでもらおうという取り組みは、クールビズのように新たなビジネススタイル、ライフスタイルとして定着し、ビジネスチャンスとなることを目指している。

〈No.849 ojo interview〉

砥川 直大さん(アサツー ディ・ケイ クリエイティブディレクター)

〈No.849 読み解き読者調査〉

新製品からロングセラーまで商品が多彩な食品ですが、生活者はその銘柄をどのように選んでいるのでしょうか。銘柄の選定状況や理由、食品ジャンル別の購入パターンを調べました。

インタビュー

第一三共ヘルスケア
小さな広告シリーズ500回記念で全面広告を掲載 4コマ漫画下の小枠広告の継続の力を実感