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コラムマーケボン

(Mon Jun 06 12:30:00 JST 2016/2016年6・7月号 マーケボン)

はじめてのダイエット
『手書きの戦略論』(磯部光毅著・宣伝会議) 平塚元明 マーケティングプランナー

  50歳を目前にして、自分の身体の異変に気付く。なんだか太ってきてないか。このところスーツの胴回りや背中のあたりがやや窮屈なのが気になって、普段滅多なことでは使わない体重計にのってみたら、今まで見たこともない大きな数字が出た。まあ、よくある話だ。齢をとって代謝が落ちてきたのだろう。

  子ども時分から小さくひ弱な体格で、何を食べてもその貧相は変わることがなかった。小学校に上がる時の身体検査で、この子は栄養失調だ、ちゃんと食べさせなさい、と医者に言われて恥ずかしい思いをしたと母親が今も言う。運動もさっぱりできやしないから、筋肉もつきようがない。ただただ貧相なまま大人になった。スーツ着て仕事してる分には貧相は多少のごまかしがきく。体育の時間がないのが大人のいいところだ。

  最近久しぶりに会う人から、貫禄が出てきましたねと言われることが増えて、はじめのうちは、職業人として経験を重ねたことからくる一種の風格のようなものでも出てきたのかしらん……とニヤついていたのだが、どうやらそれは物理的なフォルムについての婉曲(えんきょく)な警告ではないかということにようやく心当たった。貧相なまま腹が出てきてるぜ、いただけないね、ということだ。

  体重を意識して落とそうというのは、そんなわけで自分の人生で初めてのことになる。何しろ初めてなのだから、何をどうすればよいのか見当がつかない。マーケターとして、ダイエットニーズについて考えたことはあったけれど、それはやっぱり所詮(しょせん)は他人事、当事者としては全くの素人だ。食べる量を減らして、消費するエネルギー量を増やすのが基本的な理屈だろう、と思って、周囲の人に雑談がてら水をむけると、それではいくらなんでも大雑把(おおざっぱ)にすぎるらしい。この蒙昧(もうまい)の教化には、雑談がてらの時間ではとても足りないらしく、大抵話が途中になって、大雑把のその先がなかなかつかめない。

  とりあえず手引書でも探してみるか、と本屋に入る。これまでは全く気にかけたことがなかったけれど、こんなにたくさん出てるのかね、とダイエット本の多さに仰天。片っ端から手にとって、パラパラとページを繰ってみると、本によって主張がまるで違う。具体的な方法論の違いもさることながら、ダイエットというものをどう捉えるか、その思想が論者ごとに大きく異なるのだ。これほど様々な論が並ぶと、どれを選べばよいのか途方に暮れる。どれも大切なことを言っているような気がするし、どれも実際に効果がありそうな気がする。正解があるようなないような。うーん、どれを信じてみようか。

  競合プレゼンを受けた時の広告主の感覚って、ひょっとするとこんな感じなのかもしれない。複数の広告会社の提案が目の前に並ぶ。さて、どこを選んだらよいものか。イマドキの広告会社なら、具体的な施策アイデアもさることながら、「戦略」こそが重要なのだと力説してくるだろう。この「戦略」に、実に様々なフレームがあって、どれもそれなりにもっともらしい感じがするから難しい。正解があるようでなかったり、これからはナントカ戦略の時代といった具合に理論が林立、その流行(はやり)廃りがあって……と、ダイエット本選びの拠(よ)りどころのなさとよく似たところがあると思う。

  今回の推薦本は『手書きの戦略論』(磯部光毅著)。広告会社が書いてくるコミュニケーション戦略を、「ポジショニング論」「ブランド論」「アカウントプランニング論」「ダイレクト論」「IMC(インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション)論」「エンゲージメント論」「クチコミ論」の7つの「流派」に分類して、それぞれのポイントを平易に説く。広告会社がストラテジーということを言い始めた80年代から今に至るまでの戦略論のトレンドを一望できる、ありそうでなかった本だ。この仕事に携わってきた経歴の長いベテランであるほど、この分類整理のキレに唸(うな)ってしまうはず。

  「基本さえわかっていれば踊らされないですむ。そして、これからのプランニングへのヒントも見えてくる」と著者。それぞれの流派の違いだけではなく、通底する「基本」が見えてくるところがこの本の優れているところ。デジタルメディアの進化をはじめ、環境変化がめまぐるしい今日だからこそ一読をお薦めしたい。目新しい論に踊らされてそれらをはしごするだけのダイエットマニアみたいにならないように……。あ、そうだ、ダイエットについて、こういう具合に視界を拡げてくれる本があったらぜひご教示ください。

イメージフォト

著者は広告会社時代の後輩。本を書く前、構想について意見をきかせろ、と私を訪ねてくれたことがあった。実のあるアドバイスは何もできなかったにもかかわらず、あとがきの謝辞に私の名前も並んでいて汗が出た。いい本になったね、素晴らしい。

本誌デザイン/阿部雪絵デザイン室

〔筆者プロフィル〕

1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂プラニングハウスフェロー、(株)パズル社外取締役、(株)ants相談役、「宣伝会議」レギュラー講師。著書に「ポスト3.11のマーケティング」(共著)など。 http://blog.goo.ne.jp/omiyage22

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