マーケボン
(2012.1.25/2012年2・3月号 マーケボン)
一変しないから難しいのだ
『災害ユートピア』(レベッカ・ソルニット著/亜紀書房)
平塚元明
マーケティングプランナー
このところ、マーケティングや広告の仕事をしている人間が幾人か寄ると、ソーシャルメディアの話題になる。確かにこれからの時代を予見させる興味深い事象が数多く起きている最もホットな場所であるには違いないが、今日明日にでもマーケティングや広告のありようが一変する、というような論の氾濫には辟易する。
一変しないから難しいのだ。後世からは一変したと見えることも、その只中を生きる者にとっては、五年、十年という決して短いとは言えない時間をかけて漸くその変化の本当の内実が見えてくる、そんなものである。
最新の技術動向や、気の利いた海外事例を追いかけるのも楽しいけれど、目先の起伏ばかりを見ていると変化の大きな稜線を取り逃がす。急伸するソーシャルメディアを今度のキャンペーンにどう使うかという話とは別に、人々がソーシャルメディアに魅力を感じるのはなぜか、というより大きな問いをとりあえずたてておくこと。
すぐに答えてしまおうとしてはいけない。五年、十年のつもりでこの問いを頭の中に転がしておく。稜線を見る、というのはそういうことだ。
ソーシャルメディア活用本を一旦閉じて、例えば『災害ユートピア』(レベッカ・ソルニット著/亜紀書房)を読んでみよう。一九〇六年のサンフランシスコ大地震から、二〇〇五年のハリケーンカトリーナのニューオーリンズまで、数々の災害現場で何が起こっていたかを扱った本だ。
副題に「なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか」とあるとおり、どの現場においても、暴動や略奪が起こるという通説に反して、被災者の間に相互扶助的な秩序が自然発生的に生じている。いずれもソーシャルメディアが普及するよりも前の話だが、ここに書かれた風景には、ソーシャルメディアのあの喜びに通底するものを強く感じるはずだ。大きな問いを考えるにあたって良い登山口になるだう。
そういえば、ソーシャルメディアの可能性を喧伝する人の多くが昨年の東日本大震災の時の体験を引き合いに出したが、中には雑な論も多かった。確実に何かが変わったけれど、その変化が明確な像を結ぶのにはまだ時間がかかる。一変しないから難しいのだ。その解毒剤という意味でも本書の腰の据わった考察を推薦しておきたい。
推薦書のあとがきから。「災害はわたしたちに別の社会を垣間見させてくれる」が、問題はそのよりよい社会の可能性を「平 常時に認識し、実現できるかどうか」だ。今日明日に一変などしない、手軽な結論にとびつくな、と。ただし、と著者は続け る。「これは将来、平常時があればの話である。わたしたちは今、災害がますますパワフルになり、しかも今までよりはるか に頻繁に起きる時代に突入しようとしている」。
〔筆者プロフィル〕
1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂 DYメディアパートナーズメディア環境研究所客員研究員、(株)パズル社外取締役、(株)ants顧問、「宣伝会議」講師、デジタルコンサルティングパートナーズ参画。著書に「図解でわかるインターネットマーケティング」(共著)など。http://omiyage.no-blog.jp/

