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コラムこちら宣伝倶楽部

(2012.1.26/2012年2・3月号 こちら宣伝倶楽部)

顔の見えない企業
三田村和彦 三田村和彦企画事務所

イメージイラスト

  大手スーパーの創業者は顧客を「Consumer」と「Customer」に分けて考えていた。前者は「顔の見えない大衆」であり、後者は「顔の見える顧客」。前者にはマーケティングで対応していくことであり、後者には地域密着の細かいフォローで対応していくべきと指示していたそうだ。実にわかりやすい。
  この表現は企業側から客を捉えた諭しになるが、この逆で市場、大衆側から企業や会社を見るとどのようになるのだろうか。企業やブランドのことがどれくらい正しく伝わっているのか。好感度や期待はどうなのか。

広告のパブリシティー効果

  上場企業や有名大企業なのに、改めて考えてみるとその社のことがよくわからない、ブランドのうしろにあるものが見えてこない企業というのは意外に多い。知る人だけが知っていればよいという訳でもあるまいが、案外そのことを気にかけていない企業も多いらしい。なぜそのことにおおらかなのか。
  通信販売。急成長の分野だがこれを生業とする会社というのは「顔と顔を合わさないビジネス」であるせいか、看板商品や社名、場合によってはフリーダイヤルまで覚えていたりするものだが、その社の本拠地や代表者のプロフィル、社歴、企業規模、経営の姿勢や信条などはほとんどわからない。そういうところから一社、一品でも好ましくない商品や商法が出てニュースになると、その業界全体の信頼や安心、好感性が揺らいでしまう。「この社だけ、あの社だけは別」という別格の経営信条が支えになるところが出てきそうにないのは、コミュニケーションの設計に抜けや油断があることと関係していそうだ。
  ただ数字だけを追いかけていく経営の時代は、パブリシティーとしての広告の役割、広告で伝えていくべきもうひとつの仕事が、忘れるか後回しになって広告の品がなくなる。社名に「電機」とか「化粧品」「自動車」「製薬」などと事業名がついている場合は察しがつくが、これがついていなかったり、最近はやりのすぐに「X」をいれたがるアルファベットを並べただけの新興企業の社名は、ほとんどその実体がわからなかったり、企業への日常の関心は薄くなってしまう。企業は会社のことをゆっくり正しく伝えていく仕事、ふだんの理解を深めて認知から認識に移行していく仕事が、この時期大切になっている。

「売る」より「知らせる」効果

  たとえは悪いが、ふだんあまり気にしていない会社が粉飾決算や、その穴埋め資金の捻出でマイナス情報が続いたり、トップがギャンブルで莫大な損害を会社に与えたりのニュースが出ると、知らなくてよいことが一気に過分に知らされることになり、初めてその社のことがさらされることがある。素敵な商品(ブランド)も、卓越した事業姿勢も、知ったとたんに「忘れてもいい企業」のジャンルに入ってしまう。ふだんのコミュニケーションに繊細な気遣いや、誠実な情報設計が組み込まれているとマイナスを中和する役目もあるはずだが、配慮がたりぬとまともにボディーブローをくってしまう。すさんだ時代はそういうことが増える。
  「大企業ほど顔が見えない」ということもある。その中には油断や傲慢もあり、自ら世間を狭めているということもある。冒頭でふれた「Consumer」と「Customer」の区別と、その対応に関係することだ。広告をするという行為だけで考えると、産業の上流にあるような化学系の企業や、産業資材、大型設備などに関与する企業は、一般の消費財を扱う企業と違って、大衆や消費者との距離感や関係はさほど深刻なものではないはずだ。
  事業に季節感があるわけでもなく、大衆の動静や流通への日常的な気遣いもほとんどないとしたら、市場に向かう姿勢は鈍感になって、コミュニケーションが大雑把になってくる。
  広告の効果の実証は永遠の謎だし、それを学問で問いつめていくことには疑問もある。それよりも広告の「売る効果」でなく「知らせる効果」あるいは「伝えてわからせる効果」について考える時ではないだろうか。売るという行為は商品力や営業力、市場からの熱い眼差しなどを組み合わせた一種の装置できまるものだ。広告の再設計がいる時だろう。

小議論のためのまとめ

  これまでを一気にまとめてしまう。細かい説明はしなくてもおわかりいただけると思うし、周囲で小さな議論をしてみてほしい。

①顔が見えてくると、次への期待がふくらみ、ふだんの注目率が上がる。
②ものを売るだけが広告の役割ではないし、本来広告そのものには売る力はない。
③企業には知らせるべきことがたくさんあるし、知らせることが広告本来の役割だ。
④知っている人だけとの、限られたコミュニケーションだけでよいはずがない。
⑤企業は「大きく」と「強く」だけを追究しすぎると、敵を増やし無関心派を育てる。
⑥購買・購入者と、使用・利用者だけが顧客では、マーケットが縮んでしまう。
⑦テレビCMは15秒が全体の83.9%。これで何が伝わると思うのか。偏重の反省を。
⑧スピードを優先しすぎず、ゆっくり語りかけるコミュニケーションが必要なとき。
⑨語りかける広告は新聞でしかできない。それは必ずしも大スペースとは限らない。
⑩新聞で、広報と広告を組み合わせたメッセージの発信を研究しなおすべきだ。
⑪広告部門と広報部門、わが社はいまどちらを強化し重点をおくべきか。考え時だ。
⑫企業やブランドのことで、知らせ伝えることをリストアップしてランクをつける。
⑬予算規模による誤解、テレビはむしろコミュニケーションのサブメディアではないか。
⑭広告計画は年間のスケジュール消化仕事になっていないか。常に新風、新発想を。

〔筆者プロフィル〕

1938年京都生まれ。1957年、ワコールの前身・和江商事に入社。以来、広告宣伝、販売促進、広報PR、商品企画、市場開発、総合企画と一貫して企画畑一筋。約10年の宣伝部長時代に数々のヒット商品の開発に携わる。「ワコールの黄金期」を作った人物として知られる。(社)日本広告主協会理事ほか、数社のマーケティング顧問を務める。1994年、日本マーケティング協会より「マーケティング・マイマスター」認定。日本ペンクラブ会員。著書に「女性感覚市場」「街角からのマーケティング」「現場感覚の磨き方」「広告心得」など多数。連載の「こちら宣伝倶楽部」は1999年5月から続いている。

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