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コラム広告日和

(Mon Jun 06 12:30:00 JST 2016/2016年6・7月号 広告日和)

広告制作の「業種の垣根」考
澤本嘉光 電通 クリエーティブボード エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

  最近、「業種の垣根」というものの事を考えている。乗り越えやすく、同時に乗り越える事が難しい。2つの相反する事を言うようなのだが。
  広告の審査会では近年「CM部門」という言葉を使わないケースが多い。「FILM部門」だったり「映像部門」だったり。15秒や30秒といった俗にいう「テレビCM」と、3分、5分、たまには海外なんかの賞では30分を超える動画を同じ審査の中で見ることになる。ただしこれはみな「広告」、というか「商品やクライアントの何かしらのために役立っている動画」という点では共通だ。これは、この「広告のための動画」というジャンルに、15秒、30秒といった秒数制限と戦って来たCMのプロと言われて来た人とはまったく違う人たちが参入できるということでもある。秒数の制限をあまり気にせずに。映像を撮影して編集出来れば誰でも。アイデアさえあれば。極端言えば学生だって。

  これ、以前も少し書いたのだが、例えば広告関係者内で閉じて考えないでテレビのバラエティーを作ってるチームが企画から参加すればもっと面白くなるんじゃないかと思うような5分くらいの広告動画がいっぱい産まれて来ている。放送作家が考えた方が面白いのが出来そうだとか。つまり、「広告」と思われている範囲に広告とは違う部門の専門家が入ってくる事によって広告自体がさらに面白くなっていく可能性があるということだ。
  それについては歓迎すべきだし、是非その動きは起こってほしい。硬直化した業種は進歩や変革が産まれづらいので、一種の黒船として乗り込んで来てほしい。維新とまでは行かないかも知れないが、そうして広告の動画が新しく盛り上がっていくことを期待して歓迎すべきだと思う。
  しかし同時に、その参入の壁の低さは極めて内容の薄い、言ってしまえばレベルの低いものを量産させる可能性も内包している。
  異業種から参入する壁の低さだけが問題ではなく、同じ広告という業種の中でも、持っているスキルのレベル関係なく参入できてしまっている壁の低さも問題なのだが。つまり、プロではない感じ。そこには動画であればなんでもいい、とにかく単価を下げたい、といった発注側の姿勢も見え隠れしていて、正直、審査をしていると「なんだこりゃ?」という動画をシャワーのように浴びせられるハメに陥っている。
  という状況の中、15秒、30秒のCMを作り上げてきた監督と仕事をすると、改めてその編集技術の高さにびっくりする。この内容この秒数に入るんだ!という。企画する僕らCMプランナー側も確かに15秒、30秒といった秒数でうまく目立つような企画を心がけているとは思うが、監督のこの秒数スキルにはびっくりするばかりである。確かにプロだ。
  そしてやはり同じ企画でもプロに頼むのと頼まないのとでは仕上がりがまったく違ってくる。ところが、その15秒、30秒といったものをきちんと作れる人が減って来ている感があり、ある種とてももったいなく感じるし、危機感も感じる。
  大きなジャンルとしての動画広告への異業種参入はウェルカムだが、その中での専門分野としてのCMではプロと言われるだけの他を寄せつけない専門家感を広告制作者は持たないといけないと感じている。長いのを作るなと言っている訳ではなく、異業種の方が参入どんどんして来た時に得意の分野をきちんと持っているべきだという意味で。
  その点、ある時期舵取りを間違えて皆をオールマイティーという名の下に動画何でも屋にしようと推奨したように見えてしまった事は反省すべきだと思っている。まだ間に合うので、自分らなりの得意を見つけてそこで一流になってほしい。
  おそらくそうは言ってもしばらくはテレビCMは無くなってはいかないし、使い方を考えていけばこれほど効果的な媒体はやはり今他にないと思うが。

  ラジオCMに異業種才能の参入を企んでよしもとのお笑いの方にラジオCMを書いてもらう取り組みを昨年からしているのですが、書けます。やばいくらいに。気を抜いたらすべての仕事を持って行かれるくらいに書けます。もちろん、クライアントの言いたいことをまとめる、とか、整理して訴求点を見つける、までは今のところは僕ら広告の人がやって、その上で書いてもらっていますが、ストーリーを作り上げるという点ではもう出来ていますしなによりキャスティングや演出がうまい。
  これ目の前で見ていると、広告制作者もうかうかしていてはいられない、ラジオのCMはほぼお笑いの方が書いてしまう時代が来るかもしれない、とすら思います。そこで、ライバルとしてそういう方々と原稿を競うとなるとやはり全体のレベルアップにもつながると思うんです。
  お笑いだけじゃないです。作家さんも、その他いろいろな「考える職業」の方はその意味ライバルになる可能性があります。そういう方々が参入して来ても圧倒的に量が出来るような基礎体力をつけていく、というのが、僕ら広告のプロと言われてる人のまずすべき事なんじゃないでしょうか? 
  逆に言えば、僕らもこのスキルを持っていろんなところへ越境して行けると思います。それでその業界が活性化するかも知れないなら、進んで越境していいと。
  いろいろなところが広告で培ったスキルを欲しているのは身にしみて体感しています。それはソフト制作ということだけではなくあらゆるところで。そのためにも、まず、ここは負けないという核を作って行ければなと思っていますしお勧めしている、ということです。
  すくなくとも僕らは越境して来た人を排斥するような業界ではないように心がけたいと思います。
  最後のブロックだけ丁寧に書いてしまいました。なぜだろう? 恐れてるのかな何かを。

〔筆者プロフィル〕

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、家庭教師のトライ「ハイジ」、トヨタ自動車「ドラえもん」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。前者は読売新聞会員制サービスyorimoの連載を単行本化。後者の映画脚本も執筆。2014年1月に公開された映画「ジャッジ!」の脚本も担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。数多くの海外の広告賞の審査員も歴任。

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