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コラム広告日和

(2012.1.30/2012年2・3月号 広告日和)

広告作りの筋肉を鍛える究極の「加圧トレーニング」
澤本嘉光 電通 コミュニケーション・デザイン・センター エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

  最近「加圧トレーニング」に行った人の話をよく聞きます。周りを見回してもジョギングしたり、ヨガをしたり、ジムに通ったりと体を鍛えている人が多いので僕も何かしないといけないかなあ、なんて漠然と思っているのですが、漠然としたままで何も出来ていない状態です。「加圧トレーニング」の理屈は、筋肉にものすごい圧力をあえて加えてその状態で無理に運動をする事で筋肉を限界以上に鍛えていく、というものらしく、その圧を解放した時に血液が体の中を流れていく何とも言えない快感もあり、やはり限界を超えた力を強引に出させていくうちに筋肉も鍛えられていくというもののようです。

  この仕組みの話を聞いていて、これ、使えると思ったんです。よくされる質問で「澤本さんはどうしてまだ企画を考え続けていられるんですか?」という質問に対しての答えに。
  まず、(CMに限った訳ではないのですが、僕がCMについては責任持てるので例はCMの企画で話しますが、)広告の仕事って「加圧」なんですね。それは一般的な話として言うと、クライアントからの諸条件や制約や上司の好みや、そういった圧力をかけながら課題解決する案を考えていって、そこで脳の筋肉に圧をかけながらなんとかアイデアを出して、出来た、という時に圧が取れてすごく気持ちよくなる、ということだったりします。なんかうまい例えっぽいと自分で書いてて思います。これ、トレーニングと一緒でさぼろうと思えばさぼれますし圧をかけるのを低く自分で出来るんですけど、これをなるべくさぼらないで圧をそこそこ高くして続けていると筋肉は意外と落ちない。
  もちろん筋力のマックス値は年齢とともに低くなってると思いますが、なるべくそれを落とさないように加圧トレーニングしている、と言う事なんだと思います。僕は幸いにしてほぼずっと加圧トレーニングを入社以来続けてるので、考える脳の筋肉の衰弱が少なくてすんでるって事だと思います。多分、少し休むと一気に下がっていく気がします。その恐怖もあって仕事入れすぎちゃうのだろうと思うんですが……。

  ここまでは一般論。もうすこし個人的にリアリティーを持って書くと、じつは加圧トレーニングは先生が見てないと手を抜きたくなったり自分で数値設定して楽してしまったりしたくなるのですが、僕の通っている加圧の先生として佐々木宏という素晴らしいクリエーティブディレクターがいてこの人の圧力の掛け方が異常なんです。ソフトバンクは楽しく作ってそうでいいですね、と言われるけどとんでもない、毎回ものすごい圧のかかった加圧トレーニング。行った事ある人は解ると思いますが、結構つらい。一回終わったあとは生まれたばかりの子鹿みたいに四つん這いでよろよろ立てないような状態にすらなります。とにかくその時に出せるMAXの力を出させるまで加圧しますし、先生、途中で圧を強めたりします。
  なんだか愚痴を書いてるみたいですが、まあ書いてますが、実は僕が今きちんとくだらないことを考え続けていられるのも、この多分日本で一番きつい企画の加圧トレーニングにずっと通ってるからだと思うんです。このジムの特徴は、僕が自分で思っている限界値を限界と認めてくれないので、まだできるだろ、まだできるだろ、と常にさらに何か考えないといけない、一回トレーニングが終わったらすぐにまた次のトレーニングがある、先生がすぐに「ニッポン」と言う、などいろいろあります。毎回汗だくですし、たぶん横で見学してたら「あのおじさんあそこまで鍛えなくていいんじゃない、痛々しい」と見えるんじゃないかとすら。
  でも、これしかないんですよね、筋力維持するのって。自分だけで企画しているとある時点で「今回はこれでいいや」としてしまう所があると思うんですが、多分その先になにかがある。このジムではその「なにか」を常に探させられてる。それと、先生が自分自身に対して常に加圧してるのがすごい。僕、自分への加圧は手加減しちゃいますけど……。先生は自分で自分に圧をかけてる、これはなかなか出来ないなと思います。かけすぎた圧をたまに分けてくるのはなんとかしてほしいですが。
  正直僕は人にやれと言われて、とか、やむなく、で加圧トレーニングに通っています。トレーニングはきついとかもうやめたいとかトレーニング仲間にブーブーいいながら。でも結果としてやはり筋肉がもしかしたら今でも増えてるんじゃないかと錯覚するくらいに維持できている。

  CMの企画って、たぶんどれだけ自分に圧をかけ続けられるかで、一個の仕事に関しても、長いスパンで見ても、良くなっていくと思います。これは自分側からするとあきらめない、ということでもありますし、先生側からするとあきらめさせない、ということなんだろうなと。成果としてきちんとしたものが出来ると、ぶつぶつ言いながらまたトレーニングに行ってしまう。
  最初に戻ると、この究極の加圧トレーニングをずっと休まずにしている事が、僕が何とか今でももってる理由なのではないかと思います。人にこの加圧をうまくしてあげられるのがクリエーティブディレクターとすると、そこの仕方は自分ではもう少し学んだ方がいいかも知れないな、と思っていますが。

〔筆者プロフィル〕

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、リクルート「フロムA『夢のトランク』」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。同名映画の脚本も担当。読売新聞会員制サービスyorimoで小説「おとうさんは同級生」を連載した。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭銀賞・銅賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞金賞・銀賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。

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