Creativeが生まれる場所

2008.12/vol.11-No.9


衒いのない表現でメッセージをまっすぐ伝える

沢田 耕一氏

1984年電通入社。広告からパッケージデザイン、店舗デザイン、キャラクターデザインなど幅広いクリエイティブを手掛ける。代表作にコンタックの「Mr.Contac」、サントリービール“モルツ”のシズル・マークなど。JT“ホープメンソール”アドスリーブ・ケースで2004年GOOD DESIGN賞を受賞、ほか受賞歴多数。

 10月18日朝刊にホンダのオデッセイの新聞広告が掲載された。コピーは「男。」「いいクルマが好きだ。男ですから。」という男性を意識したもの。ビジュアルは全15段のカラー広告をページ送りにして、ハリウッド俳優のジョージ・クルーニーと、フルモデルチェンジしたオデッセイをそれぞれ5面と7面にレイアウトしている。大物タレントと商品を1ページずつ配したスタイリッシュなビジュアルは、大きなインパクトを与えた。
 この広告の考え方、広告作りで意識していることを中心に、電通のシニア・クリエーティブディレクターの沢田耕一氏に話を聞いた。

──今回のキャンペーンの考え方からお聞かせください。

 ホンダの「オデッセイ」は1994年に発表され、今回のフルモデルチェンジで4代目になります。初代オデッセイは、多人数が搭乗できるミニバンカテゴリーのパイオニア的な存在として人気を博しました。その後、3代目オデッセイの時に家族向けのミニバンでありながら、洗練されたプロポーションを作り上げ、今回の最新モデルはそれをさらに進化させたものです。
 ミニバンとしてのオデッセイの特性はこれまでに世の中には広く浸透していると考えられたので、今回のキャンペーンではそれ以外の部分で訴求できないかというところから発想を始めました。そこで考えたのが、男が車に乗る時の気持ちにフォーカスしたコミュニケーションです。
 僕も家族を持っているのでわかるのですが、車の購入理由としては「子どもができたから」「子どもが大きくなったから」といった家族の事情は確かに大きい。でも、そういう事情を通り越して、「俺、やっぱりかっこいい車に乗りたい」という気持ちは、いくつになっても男にはあると思うんです。そういう男の気持ちを、「いいクルマが好きだ。男ですから。」というコピーで刺激するような広告を作ろうと考えたんですね。

大物タレントで本気度表現

5面
7面
──男性を意識したクリエイティブということですが、実際に車を買う時は、案外、奥さんの発言が強いと思うのですが。

 その点に関しては、スタッフでかなり議論しました。確かに車の選択に奥さんの発言は強いのですが、奥さんにとって、だんなさんがかっこいいことやかっこいい車に乗ることは悪いことではないですよね。ですから、このメッセージはネガティブに作用するとは考えませんでした。

──俳優のジョージ・クルーニーを起用したというのは?

 世の中でかっこいい男って誰だろうと考えた時に、ジョージ・クルーニーなら誰も文句はないだろうということですね(笑)。

──ここまで海外の大物タレントを堂々と起用する広告は珍しいと思いますが。

 著名人の持っている力というのは大きいと思うんですね。インタビュー雑誌などを見ていて、素敵だなと思うのは、やっぱりその人物の力が強いからだと思うんです。要は、その魅力を広告にどう生かすかだと思います。それと大物タレントを起用することで、広告にメジャーなイメージが生まれる。それによって、その商品に対する企業の本気度が世の中にも伝わると思うんです。

──テレビCMも手掛けられていますが、ムービーとグラフィックの役割の違いは?

 両者の違いは伝達のスピードだと思いますね。テレビCMの場合は繰り返しができるから、じわりと効いてくる。最初はあまり気を引かれなくても、繰り返し見たり聞いたりすることで、次第に好きになる。動きと音の力はそこにあると思うんです。
 一方、グラフィックの場合は、一目惚れに近い感覚ですね。その感覚を作り出す設計が、グラフィックにはとても重要なんです。例えば、転校生が教室に入ってきて、パッと見た瞬間「結構、タイプ」と思えば、どんな声でしゃべるのか、どんなことをしゃべるのかが気になる(笑)。でも、そうじゃなかったら別に声も聞きたくないし、話の内容にも興味がわかないですよね。
 今回、新聞広告をページ送りにしましたが、これも読者の心に「おっ」と一目惚れさせるような感覚を起こさせたかったからです。いきなりジョージ・クルーニーが出てきて、コピーに「男。」とあったら、読者は「何?」と思いますよね。これを見開き30段でやったら、わりと平板な広告になって、「新車の広告か」とスルーされてしまう可能性があると考えました。

──車のスペックにフォーカスした全5段の広告も出稿されていますが、ジョージ・クルーニーは登場しませんね。

 ジョージ・クルーニーはあくまでも洗練された車のイメージを作り出す役割です。この5段広告では、夫婦の何気ない会話がコピーになっています。ここにジョージ・クルーニーを登場させるとただのアイコンになって、読者が共感しにくくなってしまうんですね。

10月30日 朝刊
10月31日 朝刊

情緒を刺激する広告

──以前インタビューで、消費者がモノを購入しようとする瞬間に興味があるとおっしゃっていましたが、それはどのようなものですか。

 先ほども言いましたが、モノを購入する理由には、スペックなどいろいろあると思うのですが、それ以外のもっとエモーショナルな部分が大きいと思うんです。情緒と言ってもいいかもしれません。
 例えばジャケットでも、メガネでもいいのですが、それを身に着けた時のことを想像しながら購入しますよね。今回の広告なら車をかっこよく乗りこなす姿です。それを映像化することで、広告を見ている人に、自身をジョージ・クルーニーに重ね合わせて共感してもらいたかった。まあ、共感できるほど自分たちがかっこいいかどうかはわかりませんが、男の想像力は勝手ですからね(笑)。でも、僕は、そこを刺激するような広告にしようと考えたんです。
 僕は広告の仕事を始めて20年以上たちますが、やはり広告はメッセージをきちんと届けなくてはいけないと思っています。メッセージを届けるためにはいろいろな表現やメディアなどの“道具”がありますが、届けやすい道具を衒いなく使うことが、結果的に世の中の人に伝わる近道だと思っています。僕が子どもの頃に見ていた広告というのは、割とそういうおおらかな感じのものが多かったと思うし、僕もそういう広告が好きなんですね。
 「今の時代のかっこいい表現はこれだ」というようなクリエイターの独りよがりで広告のメッセージを曇らせてはいけないし、それではモノを購入する瞬間の人の心理も掴めない。クリエイターのオリジナリティーは大切ですが、それよりも効果的にメッセージを伝えることが僕たちの仕事だと思っています。

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