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効く効かないはアイデア
広告が効く、効かないは、結局のところアイデアだ。それはクリエイティブの本質であるし、メディアの使い方の本質でもある。このメディアは効く、効かないではなく、効くための使い方があるはずだ。テレビでやっていることと同じことを新聞でやって、テレビは話題性があるが新聞はないという話になるが、そうではないと思う。それはクリエイティブの側にも、大いに責任がある。
新聞各社がやっている広告賞にしても、選ばれる作品にいいものもあるが、やはり全体の傾向として、大きいビジュアルにキャッチをものすごく小さく入れた30段カラーのようなものが多い。新聞をポスターのように使うというのもあっていいが、でもそれは新聞のほんの一部の魅力であって、すべてではない。ここ10年ぐらいはそういう傾向がある。
それは賞を選ぶ側にも問題があって、たとえば十段でも五段でも、いいものはグランプリが出るというようなことにしていかないといけない気がする。大きさにかかわらず、新聞の特性をとらえているものに賞を出していく。グラフィカルな美しさだけではないアイデアをもっと出していかないと、新聞広告は活性化しないと思う。
クリエイティブと広告主の理解
「いい空は青い」は全日空の企業広告だ。ぼくらの提案として、テレビをやっても効率的ではないのでグラフィックを中心に展開したキャンペーンだ。青い空の写真に、「いい空は青い」の1行が載るだけで広告になっている。広告としてはミニマムな構成要素だが、人の想像力を駆り立てるつもりで作った広告だ。ただ、こういう広告の作り方が、最近は少なくなっている。これは、やはりクリエイティブに対するセンスと理解がある企業だからできた広告だと思う。
日産の広告は以前から手がけているが、博報堂チームのブレーンとしてかかわったのは、ゴーン氏が社長に就任した後の「ルネッサンス」のプレゼンからだ。ルネッサンスというスペルには、フランス語でも英語でもnissanが入っている。
日産の広告は「ルネッサンス」以降変わったと言われるが、それはゴーン氏の方針があったからだ。余分なことはやらなくていい。新しい日産を売れ。その方針が揺るがない。社内の車のデザイナーの地位が上がり、広告全体も装備や高級感を売るのではなく、ターゲットにあわせすっきりさせた。
最近発売した新車種のティアナも売れているが、そのコンセプトは「モダン・リビング」だ。最近はインテリアブームだし、ティアナの室内はかなりモダンだ。しかも、あのクラスだと、奥さんが助手席に座って似合う。そのことに奥さんも賛成してくれると思った。そういうターゲットがいるし、今のそういう時代の流れがあるから、こういう広告をやれば売れると思った。普通ならインテリアだけで車を売るということはしない。やはりエクステリアも、性能もいいと言ってほしいというのが普通だ。そうしたことを一切言わず、車をイームズの椅子のように売ることに徹したところが、成功の原因だと思う。IQが高くなったというか、見ている人をバカにしていない、そんな感じの広告を目指した。
ここでのぼくの役割は、こうやったらこの車が存在する限り売れるという大きいブランドデザインを考えることだった。アイデアというと芸をすることみたいに思われるが、そうではない。広告だからそういう勝負をするときも、小技でやるときもあるけれど、本当に伝えたいことがあるときは、それを伝えればいい。広告のコンセプトはシンプルな方がいい。ティアナの場合はインテリアの車ということだった。
バック・ツー・ホーム
広告を作る時、ぼくは社会性や信頼性といった一般に言われている新聞の特性はあまり意識しない。むしろ、毎朝届いて、人と非常に近い距離にあるという特性はすごく意識する。メディアには家でご飯を食べながら見るもの、お茶を飲みながら見るもの、あるいは街に遊びに行った時見るもの、仕事先で出合うもの、夜、お酒を飲みながら見るものと、いろいろなシーンがある。そういうそれぞれのメディアの距離感というものをぼくはすごく感じる。人にものを伝えるためには、その距離感が重要だからだ。
最近新聞を読んでいて不思議に思うのは、たとえばシャープの液晶テレビの吉永小百合さんを使った広告もそうだし、ティアナもそうだが、ここのところインテリアというか室内ブームという大きな流れがあるのに、新聞にそうしたことが出てこないことだ。それは、家をリフォームするというような表面的なことではなく、時代の価値観だと思う。そのことに、新聞がなぜ、あまり触れないのかと思う。今は、バック・ツー・ホームと言ってもいい時代だ。
少し前のお金の使い道というのは、ゴルフに行ってお金を使うというように、外で遊ぶことだったが、今は室内を充実させる方向に向かっている。若者が一点豪華主義ですごくいい椅子を買うとか、ぼくらの年代が読む雑誌でも「Pen」を筆頭として、そのことにすごく価値観を置いている。
おじさんは相変わらずスポーツ欄を読むが、そのおじさんはかつてのおじさんと違って、もうちょっとモダンに暮らしたいと思っている。自分の家の中をおしゃれにしようと思っている。新聞というのはまさにリビングに広げられて読まれるものだから、そういう話題はものすごくリンクするはずだ。
新聞広告の調査を見ても、読んでるシーンや場所、得ている情報の質が変わってきているはずなのに、この企業は明るいとか、活気があるとか、スマートだ、技術力があるという昔から変わらない調査が多い。その辺の項目の偏り、新聞接触にしても「見たような気がする」だけではない項目の立て方があるように思う。
新しい競合状況の中で
バック・ツー・ホームという価値観は、企業の競合関係にも影響を及ぼしている。この夏は冷夏でビールの売り上げが落ちたり、エアコンが売れなかった。しかし、液晶テレビはすごく売れている。つまり、時間の使い方やお金の使い方が変わったということだ。旅行に行かなかった代わりにテレビを買おうかとか、そういう大きい競合状況の変化が起こっている。
以前JR東日本の仕事をしたとき、JRのいちばんのライバル会社をぼくはNTTと想定した。要するにメールをやり取りすることと、実際に会うことは実は普段の生活の中では競合している。そういう大きい人々の価値観の中での競合状況から考えないと、この商品の、この企業の立場はどこかが見えてこない。
鉄道会社のライバルが航空会社だと思うと、こっちの方がいくら安いみたいなことになるが、そうではない。そう思ったときに、「そうだよな、いつもメールしているけど、やっぱり会いたいよな」と思って電車に乗って会いに行く。そういう競合状況がその企業の持っている本当の企業価値だと思う。いくらカメラ付き携帯になっても、それより会うことの方がはるかに情報量が多いし、楽しいじゃないとなれば、「ああやっぱり鉄道っていいよね」ということになる。
人に会うことを若い人が嫌いかというと、そんなことはない。社会全体が、瞬間芸、瞬間芸でやってきて、それもむなしいということは、だれもみな分かっている。そういう大きい流れの中で、広告のクリエイティブも変わってくると思う。
バブル崩壊以降、日本の企業は自信をなくしているが、世界に出れば今でもあこがれのブランドだ。そういう日本企業の本当のリテラシーを大事にすれば、細かい瞬間芸に乗る必要はない。最近、仕事でミラノのジャンルイジ・トッカフォンドというユナイテッドアローズの絵を描いているアーティストと会って、バイクの話になった。イタリア人もバイク好きで、ドゥカティなどいいバイクがいっぱいある。しかし、「絶対ナンバーワンはホンダだ」と彼は言っていた。ミラノでは液晶の薄型テレビもあこがれの対象だそうだ。
日本が世界をリードしている商品はたくさんある。あまりゴチャゴチャした広告はやらずに、という気概があってもいい。こまごまとしたところばかり見て、自分たちの住んでいるところが見えないというのは、企業も不幸だし、困っていると思う。このままでいいのだろうかと、みんな思っている。新しい競合状況の中で企業は何を企業価値とし、それをどう届けるか。瞬間芸ではなく、それをきちんと届けるメディアの使い方をすればいいだけだと思う。
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Hiroshi
Ichikura
コピーライター
1955年群馬県生まれ。サントリー宣伝部、仲畑広告制作所を経て、90年一倉広告制作所設立。主な作品に、NTTデータ「ホーキング博士編」ほか、松下電器産業「きれいなおねえさんはすきですか」、学生援護会サリダ「職業選択の自由」、サントリーモルツ「うまいんだな、これがっ」、全日本空輸「いい空は青い」など。 |
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