印刷用ページ

オンリーワンのビジョンと広告のモラル
アートディレクター 大貫卓也 氏
日本の女性へのメッセージ
 
――資生堂の新ブランドシャンプー「TSUBAKI」には、商品開発の段階から携わったと聞いています。
紙面
2006年4月3日朝刊
 これも、売りとモラルが両方入っている仕事です。シャンプー市場は、とてつもなくハードな市場です。トップブランドでさえ10%強のシェアしかない。そこに新商品を投入すると言われた時には、正直に言って「この仕事つらいぞ」と思いました。新しいシャンプーをゼロから開発するにしても、熾烈な市場においてそう簡単にトップシェアはとれないということです。
 そこでまず、一番重要なことは、「TSUBAKI」だけでなく、「資生堂」までもが光り輝かなくては、成功はないと思ったんですね。そして、単なる新商品ではなくて、資生堂そのもののような商品を作りたいと思ったんです。しかも、シャンプーの広告は普通の化粧品よりも広告の出稿量が非常に多くて、最初からかなりの露出が見込まれていた。その広告投下量から考えても、商品広告をやるだけではもったいないので、資生堂ブランドのイメージを向上させるような広告でもあるべきだと思ったんです。
 また、それと同時に「シャンプー市場には、『日本』というど真ん中のポジションを持った商品がない」ということにも気づいた。ちょうど「椿オイル」が女性の間で見直されているという情報もあったので、椿オイルのシャンプーだということになって、そうしたら名前は「TSUBAKI」しかない。椿だから真っ赤なパッケージのシャンプーを作ろう。その辺まではスムーズに決まっていきました。
 
――「これで行こう」という確信を持つのは早いほうですか?
 「たぶんこうなるはずだ」という確信を持つのは早いけど、それを完璧にねらった形に定着するのが大変ですね。そのために、企画にも最終的な表現の定着にも手を抜かない。仕事のやり方は、確信犯に近いですね(笑)。
 
――「TSUBAKI」には、社会的なメッセージも込めたということですが。
 「日本の女性は、美しい。」、要するにこれは、本当に女性を美しくするキャンペーンなんです。化粧品やシャンプーを売っているだけではなくて、資生堂が本当に女性を内面からきれいにする。そういうキャンペーンです。
 日本の男の人は、近くにいる女性にけっこう無頓着で、髪の毛を切っても気がつかなかったりしますよね。女性は、毎日化粧したり、服を合わせたり、男と比べていろいろ大変なわけです。だから、これは日本の女性を応援するとともに、男の人にも「今日はどうしたの? きれいだね」とか、そういうことを女性に言ってみなよ。そうすることで、日常が明るくなり、日本全体が明るい空気になるじゃないか――そんな思いを込めたキャンペーンでもあるんです。
 これまで日本では、「みんなが前向きになって、女性をきれいだよとほめよう」ということが大きく主張されたことはなかった。そういう意味でも画期的なキャンペーンだと思っています。
 
――反響はどうだったのですか?
 キャンペーンに勇気づけられた、前向きになれたという声がかなりありましたね。でも、それは比較的苦労している女性が多い。苦労していない女性は、意外と感じないんですね(笑)。
 
本気が伝わる新聞広告30段
 
――新聞広告は、全30段を使っていますね。
 これはシャンプーの広告でありながら、もう完全に資生堂のブランド広告なんです。「TSUBAKI」という商品は物性であり、それでいて資生堂であり、女性そのものであるというのが、今回の広告の基本的な考え方です。
 今までの日本の女性は、桜や桃、ナデシコなど群生した花だったけれど、これからの女性は、一輪でも凛と立っている椿の花のように、自立した自分を持った新しい女性であるべきだ。これからの女性を花に例えるなら、椿しかないと思いました。
 この商品に込めた想いを、ストレートに語ったのが、新聞広告30段です。そういう社会的なメッセージには、やはり新聞がふさわしいと思いますね。もちろん、電波は飛び道具で世の中の空気を変えるのには効果的だけど、社会的なメッセージが地に足がついていて、きちんと伝わるのが新聞だと思います。もちろん、資生堂が本気だということも読者に伝わる。
 デザイン的なことで言えば、赤のグラデーションが新聞の印刷できれいに出るかどうか不安でした。掲載前日の夜中には、読売新聞にも刷り出しを確認しに行っています。
 
――発売1か月で「TSUBAKI」は、シャンプー市場でシェアNo.1になりましたね。
 商品特性を説明するよりも、その商品の持っている社会性やモラル、そして存在感が世の中に影響を与え、結果的に広告としての機能を果たしていく。そういうビジョンを持った商品が売れる、ということを示すことができたと思います。
 
 
オンリーワンのビジョン
 
――「TSUBAKI」は、ビジュアルだけでなく、コピーが効いていたと思うのですが。
 ぼくは、デザイン、コピーと分けて考えないですね。コピーの効果も、その置かれ方次第なんです。
 その企業や商品だけのオリジナルなビジョンを構築できるかどうか。それが広告の突破力になる。ナイキっぽいとか、よく言うじゃないですか。ナイキ、アップルコンピュータ、そういうところはみんな自分の顔を持っているわけで、それが大事なんです。
 でも、他の何にも似ていない自分だけのオリジナルなビジョンと顔を持つことは、本当にむずかしいですよ。競合や目先の表現の新しさに惑わされて、どこの企業の広告もみんな同じような顔つきになっている。
 ちょっとした細かいアイデアなんか、考えればすぐにできるんです。本当は、広告が面白いとか、受けたとかは、どうでもいいことです。その企業だけのビジョンというものを、社会性やモラルを意識して他のだれにも似ていないオンリーワンの顔につくり上げて提示することが、広告にとって最も大切なことなのです。

《 前のページへ 

戻る