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クレイジーなアイデアをデジタルの力で実現する(クリエーティブ・ディレクター 築地ROY良さん)

クレイジーなアイデアをデジタルの力で実現する――。BIRDMAN代表でクリエイティブ・ディレクターの築地ROY良さんは活動のモットーをそう語る。それを裏付けるように、最先端のデジタル技術を駆使したユニークなプロモーション・イベントや広告などが国内外で高く評価されている。エッジの利いたクリエイティブに加え、近年はデジタル広告業界全体のワーク・ライフ・バランスの改善にも取り組んでいる。その理由とは?

── お名前の「ROY」はミドルネームですか?

そうです。国籍はオーストラリアです。小学校3年の時にシンガポールに移り住み中学校からオーストラリアです。大学はオーストラリアの美術系大学でデザインを専攻していました。大学在学中から地元のグラフィックデザイン会社で働いて、卒業後もそのまま2年ほど働きました。

── そして、「来日」したわけですね。

1998年に、日本の広告プロダクションに入社しました。そこで5年ほど勤めました。映像の仕事をしたかったのですが、日本では仕事が細かく分業化されていて、一人で全体を見渡した制作をすることが難しかった。以前勤めていた会社(オーストラリア)では少人数で映像を作っていたので細分化されたワークフローに納得できず映像制作の道は諦めました。そんな時にWEBで動画を手軽に作成できる「Flash」が広がり始めて、「これならすべての工程を自分一人で出来るじゃん」って思ったわけです。

── Flashとの出会いが、独立にもつながるわけですね。

実際、趣味で作ったFlashのサイトが雑誌に掲載され、個人的に頼まれる仕事が増えてきて、2004年に会社を設立しました。「Spiced Graphix」という会社で、09年に「BIRDMAN」に名称を変えました。

フリーの時は、「孫請けの孫請け」といった末端での仕事が多かったのですが、ここでもいつかは企画段階からかかわり、全ての工程を手がけたいという思いが強かったんです。

── 名称変更に合わせて、翼を大きく広げたキャラクターも作ったんですね。

ええ。クリエイティブ業界で憧れられるヒーローのような存在にしたいと思ったんです。一緒に高みを目指す、というキャラクターです。デザインは当時のデザイナーと一緒にゼロからつくりあげました。今も会社の成長とともにキャラクターも進化しています。

── デジタル技術を応用したイベントが得意ですね。

確かにそれが僕たちの強みです。例えばPARTY New Yorkさんと制作した、ナイキの「NIKE UNLIMITED STADIUM」という、フィリピン・マニラで16年に行われたイベントがあります。ランナーが靴紐にRFIDタグを付けたシューズを履いて、壁状になったLEDスクリーンに沿って走ると、2周目から前の周のラップタイムで走る自身のアバターが登場し過去の自分と競争できるという内容です。つまりアバターに勝てば勝つほど自分自身に勝つということになります。このイベントでは企画段階からかかわり、技術面、演出、デザイン、そしてアプリの開発などを手がけましたが、ほとんどを社内で内製することで短期間で形にすることができました。

── イベント制作から一歩進んで、プロダクトの開発まで手がけるケースもあるそうですね。

「NISSAN INTELLIGENT PARKING CHAIR」というTBWA\HAKUHODOさんと制作したプロジェクトがその一例です。車を駐車する際にドライバーを助けてくれる日産の技術を分かりやすく伝えるための映像で、手をたたくだけで乱雑に散らばっていたいすが元の位置に自動で戻るという内容です。いわば、後片づけをしなくても済むチェアです。

企画から完成までに1年半かかり、このいすの企画と開発、そして展示デモンストレーションも担当しました。SNSでは、いすが自動で戻る場面が不思議な映像として多くの人にシェアしてもらうことができました。

直近では、MTGが手掛ける新しいスタイルのトレーニング・ジム「SIXPAD STATION」にコンセプト作りから参画しています。SIXPAD STATIONはEMS(筋電気刺激)を使った近未来型トレーニングジムです。EMSフルボディースーツを着用し、5つの動作を行うことで、全身の筋肉へのアプローチをより高め効率よくトレーニングができます。ここでは通常のジムのようなウェイトやトレーニング機材などは必要ありません。しかし逆になにも無いためにトレーニングが単調になります。そこでBIRDMANはDigital Training Mirrorを提案·開発。トレーニングにゲーミフィケーション要素とヴィジュアル·エフェクトを追加し、トレーニングがより楽しく続けられるようにしました。ミラーディスプレイとセンサーを使用し、ミラーに映った自分の身体の上に重ねて表示される、今までに無いトレーニングUIを開発。トレーニングメニューやタイム、動作ガイドを表示しトレーニングの進行をサポートします。またどこの筋肉が鍛えられているのかというのをミラーに映った自分の身体に重ね可視化しました。

── 圧倒的なクリエイティブで人をあっと驚かせるような作品が目立ちます。

そう言っていただけるのは、本当にうれしい。15年に東京・六本木の東京ミッドタウンで行ったクロックス・ジャパンのイベントも反響の大きかった仕事です。お客さんが靴を注文するとドローンが商品をピックアップし届けてくれるという空中ストアという店を期間限定で開きました。イベント初日には40社を超えるメディアに取材していただき、商品やブランドの知名度を高めるのに大いに役立ったと思います。

── 時間と手間をかけたイベントだったそうですね。

ドローンがお客さんに注文の品を届けるという注目度の高いイベントなので、もし、失敗して事故でも起こしたら、マイナスの意味で有名になってしまう。絶対にミスが許されない。そこでドローンを完全に制御できるまで、巨大な倉庫を借りて実際のイベントと同じセットを組んで約2ヶ月間実験を繰り返したり、ドローンを新しく開発したりしました。最終的に「これでいける」という確信を持てたのは本番の2日前でした。

── 最近は、スペシャルサイトの作成というより、クロックスのイベントのようにデジタルの技術を応用したイベントやプロモーションが仕事の中心になってきましたね。

もちろんスペシャルサイトも制作していますが、クライアントが今までメディアに使っていた予算をPRよりの施策に使うようになって来ているという印象です。これはソーシャルメディア中心のマーケティングがメインになっていることを考えると当然の流れだと思います。依頼主からも、イベントを通して斬新な発信がしてみたいと、声をかけていただく機会が増えています。その際は可能な限り社内で制作することにこだわっています。実際にその方がクオリティー担保や予算面などの調整が効きます。様々なデバイスや装置を作るための工房も社内に設けて、一気通貫の態勢も整えました。

── クリエイティブを手がける会社としてPR会社と事業提携しました。外から見ていると意外な感じがしたのですが。

SNSが重視されている今だからこそパブリックリレーションは非常に重要だと考え、17年にデジタルメディアに特化したPR会社のアウルさんと提携しました。何処からどのぐらい拡散されているのか、特にデジタルメディアはPV数や共感数などがダイレクトに数字としてわかります。そうしたデータを踏まえた企画を提案できると考えました。

また、SNSで炎上を避ける、リスク回避につながる点も提携のメリットだと思っています。必要以上に炎上を警戒して、少数派に過剰反応してしまうリスクも避けることができます。

コンドームを製造しているオカモトの「LOVERS研究所」というプロジェクトなどはPRの重要性が特に高いです。そもそもコンドームという商材自体がナイーブな上、性に関する製品の広告には規制があり、掲載しにくいというハンデがあります。そこでPRをうまく使った施策をとることによってソーシャルメディア上で話題化させました。そこから緻密なPR戦略によってテレビや雑誌などあらゆるメディアで取り上げられ大きな話題になり、結果として商品に対する偏見を減らすことにも役立ったと思っています。

── 攻めに徹したクリエイティブの一方で、クリエイターの働き方やワーク・ライフ・バランスの改善にも取り組んでいますね。

オーストラリアで働いていた時は、ほぼ定時に帰っていました。クライアントも定時には引き揚げます。それでクリエイティブのレベルが落ちるかと言えば、そんなことはありませんでした。日本では依頼主が成果物に対してお金を払うだけだから、週末に頼もうが深夜に依頼しようが支払額はかわりません。そこで、仕事を受けたクリエイターの働き方も不規則になり、夜遅くまで働き、生活は顧みられないという悪循環に陥っていると思います。それを変えたいと思っています。

人生を豊かにするため働くのであって、働いた後はプライベートを大切にする。ところが日本では私的な時間も含めて、時間がある限り、制作を続けようとします。一見、いいことのようですが、本当にそれでいいのでしょうか。これは色々な意見があると思うので個人的な意見ですが、僕は仕事としてのクリエイティブは、いかに限られた時間の中で良いものを作れるか、というのが本来あるべき姿だと思っています。

僕自身、デジタル広告を制作する企業で組織する一般社団法人「I.C.E.」でも理事を務めていて、この業界として働き方について改善に取り組んでいます。

── 斬新なアイデアが出て、ユニークなサービスを提供していくため、社内環境で気を配っていることはありますか。

社員のコミュニケーションを活性化させることでしょうね。案件をいただくと、メンバー全員に告知して、興味がある人が集まりアイデアを出し合うところから始めます。肩書に縛られずプログラマーやデザイナーなど、それぞれの視点で多角的に話し合い、アイデアが採用されたメンバーがチームを組んで案件を担当します。いかにメンバーがモチベーション高く仕事ができるかを常に考えています。

また、月に一度「乙ピザ会」というのをやっています。4、5人がチームを組んでキッチンにあるピザ窯でピザや料理を他のスタッフにふるまうというイベントです。何を作るかは担当のチームにお任せで、毎月出てくるものがチームによって大分変わります。そこでみんなでお酒を飲みながら食事をして雑談をします。特別なことではないのですが、そこでコミュニケーションを取ることを大事にしています。

── 16年にはニューヨークにオフィスを設けましたね。いよいよ海外進出ですか。

実はこれも「乙ピザ会」でスタッフ達と雑談していて始まったことです。「NYにオフィスあったら良くない?」と。まさにノリで作ってしまったNYオフィスですが、現在プロデューサーとアートディレクターの2名がNYのオフィスで働いています。当初は日本からスタッフを派遣し、NYに滞在してもらうことで日本では感じられない刺激を受けて帰って来られる環境を作るということでした。しかし今の目標は、NYで受けた仕事を日本のチームが制作し日本のクリエイティブをNYで発信することで、グローバルにアピールしていきたいと考えています。そして日本のクリエイティブの評価をあげることで最終的には日本のクリエイティブに対する対価を上げ、ワーク・ライフ・バランスの向上につながることを目指しています。

(聞き手 YOMIURI BRAND STUDIO クリエイティブ・エディター/ライター 高橋直彦)

Roy Ryo Tsukiji

1973年生まれ。オーストラリア出身。シドニーにあるNSW大学College of Fine Arts卒業。シドニーの広告制作会社を経て、98年から日本を拠点にデザイナーとして活動し、2004 年にBIRDMAN を設立。ソフトウェア/ハードウェアを問わずにあらゆる手段を使って人を動かす提案をする。デジタル技術を用いたインタラクティブ広告を中心に制作を手掛け、常に驚きがあるデジタルエクスペリエンスを作ることにチャレンジしている。Cannes Lionsゴールド、OneShowゴールド、Spikes Asiaグランプリ、Clio Sportsグランプリ、Code Awardグランプリ、ADFESTゴールドなど国内外にて350以上のアワードを受賞。Webアワードの権威The FWAでは日本で唯一世界ランキング30以内に入る。

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